日本には、目立たないけれど日々の暮らしに溶け込み、「あってあたり前」の風景をつくってきたブランドがある。2027年に100周年を迎える日東紅茶の100周年記念ロゴ制作では、その100年の歩みを読み解き、節目にふさわしい佇まいを形にすることを目指した。
ピクニックメンバー:
宇田 祐一(株式会社スマイルズ) / 執筆
日東紅茶100周年プロジェクトメンバー
生活の定番ブランドという存在
日本には、目立たないけれど、長く生活の基盤を支えてきたブランドがある。
それらは、一過性の強い憧れをつくるブランドとは違い、日々の暮らしに馴染み、溶け込み、「あってあたり前」の風景をつくってきた。
派手に語られることは多くないが、それらが私たちの日常の原風景となっている。そんな「生活の定番ブランド」が、日本の暮らしを彩っている。
日東紅茶も、そのひとつだと思う。
1927年、日東紅茶の前身である「三井紅茶」は、日本初の国産ブランド紅茶として誕生した。当時、紅茶は舶来の高級品であり、一般家庭にとって身近な飲み物ではなかったという。日東紅茶は、紅茶をより多くの人へ、より身近な存在として届け、日本の紅茶文化を育ててきた。
※参考:日東紅茶の歴史
https://www.nittoh-tea.com/enjoy/history/index.html
100年という時間をどう形にするか
2027年、日東紅茶は100周年を迎える。
100周年ロゴを考えるうえで大切にしたかったのは、単なる記念にとどまらず、「暮らしに根づいてきた時間」をどう受け止め、形にするかということだ。
もうひとつは、100周年プロジェクト「NITTOH 100 PICNIC」の考え方を引き継ぐこと。これまで自分から前に出ることの少なかった日東紅茶が、さまざまな人たちと出会い、新しい輪を広げていく。その姿勢も、ロゴに込めたいと考えた。

100周年ロゴに込めた思想
ロゴは、大きく二つの要素から構成されている。
ひとつは、100周年という節目を象徴する「100」。
ただし、単に数字として100を見せるのではなく、日本初の国産ブランド紅茶というブランドの出自から、縦書きの漢数字「一〇〇」や「百」の佇まいをモチーフにした。日本で生まれ、日本の暮らしのなかで育まれてきたブランドだからこそ、日本語ならではの静かな美しさや文化性を大切にしたいと考えた。
もうひとつは、同心円のモチーフ。
一滴の雫が紅茶に落ち、静かに波紋が広がっていく。その様子は、紅茶を囲む時間や、人と人とのつながりにも重なる。
100周年プロジェクト「NITTOH 100 PICNIC」が目指すのも、ひとつの出来事をきっかけに、人との出会いが生まれ、その輪が少しずつ広がっていくことだ。生活者をはじめ、社員、取引先、そしてまだ出会っていない誰かへ。その広がりを、波紋というシンプルな形で表現した。

会話のなかで向かう先を見定める
もちろん、最初から今のかたちが見えていたわけではない。
プロジェクトメンバーとの検討会では、100周年をどう迎えるべきか、さまざまな意見が交わされた。新しいことを始める期待感や、ブランドの見え方が変わることへの高揚感など、前向きな空気があった一方で、議論が行き詰まるたびに、「自分たちはどんなブランドなのか」という問いへ自然と立ち返っていたことが印象に残っている。
そこで見えてきたのは、「新しいことを始める」という姿勢だけでは、日東紅茶らしさを十分に表現できない、ということだった。ロゴの形を考える前に、まずブランドそのものを理解しなければならない。私はそう感じていた。
そこで、「波紋」「印証」「溶け日の出」「New encounter」「乾杯 –カンパイ–」といった大きく5つの方向性を提案した。

それぞれが100周年という節目を異なる角度から捉えた案だった。どれかを正解として選ぶためではない。「100周年をどう解釈するか」をチームで共有するための、いわば議論の起点として提示した。
デザインの初期段階では、造形を決めること以上に、考え方の方向を揃えることが重要になる。だから私は、いきなりロゴを描き始めるのではなく、まずブランドがどこへ向かいたいのか、その可能性を言葉とイメージで可視化することから始めた。
アーカイブから見えたブランドの美意識
検討会のなかで、歴代のパッケージアーカイブを拝見する機会があった。私にとって、それは単なる歴史資料ではなかった。
一つひとつのパッケージには、「その時代に何を目指したのか」「どんな暮らしに寄り添おうとしたのか」という試行錯誤のエピソードがあり、それが思い出話のように語られる様が印象的だった。
それは、商品を売るためのデザインというより、暮らしの中にどう佇むかを考え続けた、その記録のように感じられた。
そして歴代のパッケージには共通する空気があった。必要以上に自己主張せず、暮らしの風景に自然と溶け込むこと。紅茶としての華やかさを持ちながら、毎日の暮らしに静かに寄り添うこと。
そこには、日東紅茶が長い時間をかけて育ててきた「意匠」が確かに息づいていた。
100年という時間は、ただ守り続けてきただけの時間ではない。時代に合わせて少しずつ変わりながら、それでも変えてはいけないものを問い続けてきた時間だったのではないか。
100周年だからこそ、変えないものがある
日東紅茶が100年間、日本の暮らしの中で信頼を積み重ねてきたこと。
その積み重ねを感じられる品格や文化性、そして暮らしの中に自然と溶け込む静かな美しさこそが、日東紅茶らしさなのだと思った。
だから今回のロゴでは、100年かけて育まれてきたブランドの美意識を、次の100年へ受け渡していくことを目指した。
おわりに
100年という時間を歩んできた日東紅茶。
その時間を読み解き、100年という節目にふさわしい佇まいへと翻訳することが、この仕事だった。
ブランドは、一つのロゴだけで育つものではない。
これからも暮らしの中で使われ、愛され、少しずつ時間を積み重ねていくことで、「生活の定番ブランド」は育ち続けていく。
このロゴもまた、日東紅茶がこれから積み重ねていく歩みの一部になることを願っている。
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